ポケットの中の荒巻

絵:ちちるちる
ようやく暖かい日が差すようになってきた今日この頃。 冷たい手をコートのポケットに突っ込んで歩く必要がなくなってきた。
それでも、ついついポケットに両手を入れてしまうのは末端冷え性だけが理由ではないだろう。
子供の頃、先生たちから「危ないからポケットに手を突っ込んではいけません」 と転倒や怪我に対するリスク回避を度々促されてきたが、 猫背でポケットハンドが妙に落ち着く私はそれを受け入れることが出来なかった。 大人になった今もそれは変わらない。 それは何故か。
私のポケットには荒巻が住んでいるからだ。
彼らは人間の手の温度じゃないと生きていけないのだ。 定期的に空気の入れ替えを行わないと窒息してしまうため、 ポケットの入り口を一日に数回開閉してやる必要もある。
もしポケットに手を入れずに真冬の街を歩いてしまうと、 彼らはすぐに死んでしまうのだ。
だから私は負けられない。 先生に怒られようが、会社の名前も知らない人に注意されようが、 私はポケットに手を入れ続けなければならないのだ。 決して手袋を無くして買うお金がないわけでも、格好付けているわけでもないのだ。
そんな歌を私は書きたい。